M38

M38ウィリスMC、米軍公式名称M38は、MBを製作したウィリスオーバーランド社ミリタリーモデル第3作Cタイプとして、1952年2月から60,344台製作されました。

M38は米軍初めての完全防水ジープで、24V電装。電装類は、ハーネスに至るまで完全防水で、エンジン、パワートレインも防水対策が施され、フーディングキット(吸排気シュノーケル)を取り付けることにより、約1.9mの水中走行が可能です。

1950年2月、オハイオ州トレドのウィリスオーバーランド社のMBと同じラインから、シリアルナンバー10001番から生産され、1952年6月までに70344番(60,344台)生産されました。M38は、非常に資料の少ないジープで、一般に、CJ3A(民間用のユニバーサルジープで、三菱の最初のノックダウン・ジープ)の軍用モデルといわれているようですが、仕様は全く異なり、24V電装、ハーネス・エンジン・パワートレインに完全防水を施し、ボディはCJ3Aのプレス流用も見られますが、各部の補強とインストルメントパネル周辺は、全く別のものとなっており、CJ3Aの軍用モデルとはとても思えない作りとなっています。

初期型と中後期型の違い

M38も、MB/GPW同様に、初期のものと中後期のものとでは仕様がだいぶ異なり、シリアルナンバーごとのレストアが必要となります。

大きな違いを2~3あげてみますと、フロントタイダウン、シャックルブラケットが、初期型ではフロントバンパーより中に、後期型ではフロントバンパー上部にあります。インストルメントパネルも初期型ではネームプレート類が直接リベット付けされ、中期からは6枚のプレート類を大きな鉄板にリベット付けしたものが使用されています。また、パワートレイン関係の防水も、初期のものでは、ベルハウジング、ミッションなどに排圧を加えておらず不完全なものでした。

さまざまな防水対策

すでに述べたように、M38は完全防水のジープで、大戦(WW2)中のアスベストグリースと耐熱セメントを用いたMB/GPWの防水化キットから発展したもので、ワイヤリングハーネスは、スナップカップリングと防水コネクターがふんだんに使われ、ライティングスイッチ、テールランプ、B/Oマーカーランプは、アルミダイキャストで作られ、レギュレーター、ダイナモ、セルモーターなども、ダイキャストカバーにラバーのOリングパッキンとネジで防水しています。

ディストロビューターも、アルミダイキャストケースでコイルとともに完全防水し、コイルの冷却用に配管を施してあります。また2次コード(ハイテンションコード)は、防水コネクターと銅線メッシュでシールドされたコードを使用し、スパークプラグも頭部を防水コネクターにした防水プラグが使用されています。


エンジンシリアルナンバー74419以降のパワートレインでは、トランスミッション、クラッチハウジング(ベルハウジング)やエンジンクランクケース内に発生する排圧は、エンジンオイル給油口(フレッシュエア側)にあるフーディングバルブとブローバイガス再燃焼側(吸入再燃焼用のパイプ)のフーディングバルブを閉じることにより排圧を発生させ、エンジンブロックに取り付けたフューエル/バキュームポンプのボディからパイプ配管し、クラッチハウジングと第二ミッション(トランスファー)ケースの上部にあるブリーザーに加えるものとなっています。これにより、排圧が水圧より高ければ水が進入してこないこととなるわけです。


フーディングバルブが開いている通常の状態のときは、ブローバイガスがマニホールドに吸入され再燃焼されます。

また、クラッチ、ミッションは、エンジンオイル給油口から流れてくるフレッシュエアが開放されることとなります。ブレーキマスター、ガソリンタンクのブリーザーも、エアクリーナーへと配管され防水化されています。


エアクリーナーは、MB/GPWと殆ど同じ型状のオイルバスエアクリーナーを使用していますが、空気を吸入する側が、ルーバー(後面にある)の代わりにパイプにし、吸入シュノーケルパイプの接続ができるようにしてあります。


Deep Water Fording Kit(吸排気用シュノーケル)を取り付けることによって、約1.9mまでの水中走行ができるようになったが、MB/GPWの1台のコストが700ドル前後であったのに、防水機構のコストアップに伴い、1台あたり約3倍の2,162ドルとなり、米軍ジープの中で最も製造コストの高いジープとなりました。

MB/GPWの機能を受け継いだ最後のジープ

2年5カ月後の1952年7月、M38はM38A1に世代交代することとなります。MB/GPWからのローシルエット(背の低いジープ)と、ローフードによる前方視界の良さは、M38を最後になくなってしまうこととなります。M38はMB/GPWの機能を受け継いだ最後のジープとなったのです。

M38は、朝鮮戦争時代のジープですが、朝鮮戦争には、距離が近く、技術力もある日本人が、修理・再生したMB/GPWを大量に前線に送り出したことと、M38A1の配備により、あまり使用されることとなく世代交代を迎えたのです。